10:天沢履(てんたくり)
周易64卦を順番に紹介しています。
天沢履
虎の尾を踏んでも
喰われない。
危険はない。
虎の尾を履(ふ)むも人をくらわず。亨(とお)る。(『易経』経文より)
強い者に礼を尽くして応じれば
無邪気な少女がトラの尾を踏んでも、かみつかれる心配がないように
危険はありません。
セクシャルな魅力で男子を引き寄せるモテ女。
<解説>
天(乾)の下に沢(兌)があります。沢は人でいえば少女、天は父親で、年長の男性・強い人・権力を持つ人を意味しています。ここでは虎にたとえられています。
無邪気な少女が虎に向かい、虎の尾を履んでしまった様子をイメージしてみてください。でも、少女は虎に噛みつかれることはありません。
沢は兌で、「悦」ぶという意味もあり、無邪気な少女が虎と遊んでいるようでもあります。「履む」という字は、人が足で道を踏み歩くことを表し、人の常に履むべき道という意味があります。
虎の尾を履むような危険なこととは、経験の浅い人が経験のある人に向かってくようなことでもありますが、そのとき礼にかなった態度で接すれば危険はないというのです。
この卦は陰の符号が1つに、5つの陽。人体の部位でいえば、ちょうど腰(股)のところに陰の符号があり、そこに残りの5つの陽が引き付けられるということで、「女子裸身の卦」と呼ばれています。
一人の女子(=陰)が、たくさんの男子(=陽)をセクシャルな魅力で引き付けているというふうに見えるわけです。そこで、男性経験の豊かな女性、恋多き女などを意味することもにもなります。
<この卦が出たら・・・>
【全体運】:一歩一歩、進むべき道を歩んでゆきましょう。
【願い事】:叶います。
【仕事・人間関係】:上下関係がはっきりしています。自分より力のある人に対しても、礼にかなった態度で接すればうまくいくでしょう。あなたのいささか大胆な行動も、大目に見てもらえるでしょう。就職・転職は履歴書と面接時の態度が決め手。緊張しすぎないよう、リラックスして臨めばうまくいくでしょう。
【戒め】:目上の人に対する態度に気を付けましょう。親しさを表すつもりで、ため口聞くのはおよしなさい。わからないことがあれば素直に、目上の人や経験者にたずね、教えを乞うようにしましょう。
【お金】:無駄遣いしなければ大丈夫です。浪費に気を付けて。
【恋愛】:女性はモテ期。とくに年上の男性に気に入られそう。社会的地位もあり経済力のある男性がねらい目です。危険な恋にはまることがあります。ワルに惚れないように気を付けましょう。男性は女性から値踏みされそうです。実力をつけてモテ男になりましょう。
【相性】:カップルはうまくいくでしょう。ただし、相手に振り回されることがあります。
<余談>
※易経には古代からの家父長制に基づく世界観が反映しているところがあり、女性が翻訳の文章に触れると不快に思えるところもあるでしょう。昔の男性の易者は、こういう卦を「男グセの悪い女」と言ったかもしれません。そういうところは読み替えていきたいです。
易経の占いの部分が、西洋のタロットカードほど女性に人気がなかったのは、雷沢帰妹などにもみられるような女性の生き方についての、現代女性にはなかなか受け入れられない表現や解釈があるからでしょう。
ユダヤ-キリスト教の聖書などにも差別的用語が”豊富に”用いられていました。最近では翻訳自体が現代の認識に変化し、露骨な差別用語は約しなおされているようです。
余計なことですが、現代社会は、世界中のほとんどがなお、家父長的な世界観を引きづっています。古代の家父長的世界観に基づく社会では、権力のあるものが支配し、社会階層(ヒエラルキー)が生じ、ヒエラルキーの下の方は差別されるという構造から抜け出ることができません。
もっとも、そういう社会においても、庶民の生きる知恵というものがあり、知恵は階層を超えて人の魂を豊かにし、魂の豊かな者は内的に豊かな人生を送ることができるでしょう。
家父長制の社会が敷かれる以前の古代には、世界各地に共通して母性社会が存在していたという見方が、学者らの共通した見解です。母性社会では家父長制社会におけるような不平等や差別はなかったと考えられています。